前作の『Land of Eardrum』のリリースが2012年の春。その頃から『Over Your Shoulder』の収録曲(ビートやトラックではなく敢えて”ソング”という)は作られていった。次々に。
我々はすごく焦っていた。『Land of Eardrum』には一定の満足感はあったが(特にサクラダさんがデザインしたフクロウジャケットは素晴らしい・・)、我々は物足りない気分に陥っていた。何かどこか当たり前のように作ってしまった気がして、その居心地が悪さに戸惑い、同じところをぐるぐると回っている、もしくは入り口でうろうろしている心持ちになっていた。
自分たちが”進化”してないような気がする事。それはただただストレスだ。
こんなはずじゃなかった、という思いが我々の制作欲を駆り立てていた。今一度、レコード棚、PCのハードディスク、自分たちの頭の中、其処彼処にある音楽を聴き返し、膨大な量の取捨選択を繰り返した。その結果、大量のレコードが中古レコード店の買取にまわされ、ハードディスクの空き容量は増え、混乱したままになっていた思考も若干すっきりした。
そこへ今度は、今まで存在を知っていながらも、ちゃんと聴くことのなかった音楽と向き合い、レコードを買い込み、またネット上に次々に生まれ現れる音楽をチェックする。その中には、のめり込んで深く聴き込むものもあれば、三日間だけ気に入った(気になった)もの、一瞬で見切ったモノ。様々だったが、そういう行為がそのまま”新しいSTUDIO75”の礎となっていた。積極的に吸収し、積極的に捨てていった。
そんな日々のなかで、「基準」「客観性」「クオリティーコントロール」。我々が必要としているものを、渋谷にある”Bar Music”に求めた。
2ヶ月に1度行われる『暮らしの手帖 at BarMusic』に於いて、まずは今気になっているレコードを掛け、場の空気にうまく馴染んでいるかどうかを見計らい、その合間合間に今制作中の『STUDIO75の曲』を織り交ぜ、更に今の自分たちの興味と実際に作り出しているものが乖離していないか確認する。それから店主・ナカムラトモアキ氏の反応を待つ。あくまでもさりげなく。
ナカムラ氏は必ず聴いている。たとえその時お酒をサーブしたり、コーヒーをドリップしていても、耳だけは常に音に向けられ、注意深く吟味している。だから『制作中のSTUDIO75の曲』を掛けていれば、彼はすぐに顔をあげて、こちらを見る。可能であれば何かしら言葉を掛けてくる。
そうしたことを1、2年続けたのち、ナカムラ氏からこう提案された。
「新しい”STUDIO75”のアルバムをムジカノッサ(MUSICAÄNOSSA)からリリースしませんか?」
我々にとって歓迎すべきことだった。そしてそれはとても自然な成り行きだと皆んなが思った。なぜなら『暮らしの手帖 at BarMusic』で培養された音に違いなかったからだ。
かくしてナカムラ氏に30余りの曲を渡した。彼はそこから15曲を選び、曲順を決める。それからは多少のミックスダウン、マスタリングの作業を施したが、ほぼそのままを完成とした。悩むこともなく、既に完成していると判断した。ミックスはアレンジと共に、マスタリングはミックスと共に・・。
今我々はナカムラ氏と共に深い満足感の中にいる。自然と笑みがこぼれるし、何度でも繰り返し『Over Your Shoulder』を聴いている。聴いてもらう人すべてに感謝する。聴いた人すべてに気にいってもらいたいと願う。
と、同時に我々はアナタを見ていない。アナタの肩越しに「その向こう」を見ている。